大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和31年(う)831号・昭31年(う)835号・昭31年(う)834号・昭31年(う)833号・昭31年(う)832号 判決

記録によれば、被告人野田泰庵に対する公訴事実は、被告人野田泰庵は昭和三〇年五月六日頃東国東郡国見町大字伊美沢宮義男方において、被告人野田豊に対し投票並に投票取纒等選挙運動に対する報酬及び買収費用として現金二万円を供与し、(昭和三〇年七月三一日附起訴状第一の(一))とあるに対し、原審が訴因変更の手続をしないで、被告人野田泰庵は昭和三〇年五月六日頃東国東郡国見町大字向田重光和六方において、被告人野田豊を介して被告人池部止に対し中野候補えの投票並に投票取纒等選挙運動に対する報酬及び買収費用として現金二万円を供与し、(原判決第一の(一))と認定し、又被告人野田豊に対する公訴事実は、被告人野田豊は(一)同月六日頃東国東郡国見町大字伊美沢宮義男方において、野田泰庵より中野候補えの投票並に投票取纒等選挙運動に対する報酬及び買収費用として現金二万円の供与を受け(昭和三〇年一二月二一日附起訴状第一)、(二)前項同日東国東郡国見町大字向田重光和六方において被告人池部止に対し前項と同じ趣旨で現金二万円を供与し、(昭和三〇年七月三一日附起訴状第二)とあるに対し、原審が訴因変更の手続をしないで、被告人野田豊は野田泰庵が前記第一の(一)記載の金員(即現金二万円)を池部止に供与するに当り、同町大字伊美沢宮義男方において前同日之が伝達方の依頼を受くるやその情を知り乍ら之を受諾し、即日之を携行して同町大字向田重光和六方において被告人池部止に伝達交付して野田泰庵の右供与を達成せしめて之を幇助し、(原判決第二)と認定していることは所論のとおりである。けれども、刑事訴訟法第二五六条第三一二条において訴因及びその変更手続を規定した趣旨は、審理の対象、範囲を明確にして被告人の防禦に不利益を与えないためと認められるから、裁判所は審理の経過に鑑み被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞れがないと認めるときは、公訴事実並びに罪質の同一性を害しない限度において訴因変更の手続をしないで訴因と異る事実を認定しても差支えないものと解するを相当とする(最高裁判所昭和二九年一月二一日判決参照)。

(一) 而して記録によれば、被告人野田泰庵は前記公訴事実に対し警察、検察庁及び原審公判を通じ終始一貫して、二万円は被告人野田豊に供与したものでなく同被告人を介して池部止に供与したものである旨原判決認定のとおり弁解しており、しかも右公訴事実と原判示事実を対比するに、被告人野田泰庵が昭和三〇年五月六日頃東国東郡国見町において中野候補えの選挙運動の報酬及び買収資金たる現金二万円を被告人野田豊に手渡した上これを供与した事実に変りはなく、只供与の相手方と供与の場所中大字何某方に差異あるに過ぎずしてその相異は被告人の防禦に重要なものではないから、訴因変更の手続をしないで原判示の如く認定しても、被告人野田泰庵の防禦に何等実質的な不利益を及ぼすものとは認められない。

(二) 又記録によれば、被告人野田豊は前記公訴事実に対し警察、検察庁及び原審公判を通じ終始一貫して、自己が供与を受け且つ供与したものではなく、被告人野田泰庵が池部止に供与するのを取次いでやつたに過ぎない旨原判決認定のとおり弁解しており、しかも右公訴事実と原判示事実を対比するに、被告人野田豊が昭和三〇年五月六日頃東国東郡国見町大字伊美沢宮義男方において、被告人野田泰庵より中野候補えの選挙運動の報酬及び買収資金たる現金二万円を受取り、同日これを同町大字向田重光和六方において池部止に手渡した外形的事実は全く同一にして、只被告人野田豊が自ら供与を受けた上更にこれを池部止に供与したという併合罪の訴因に対し、原判決は被告人野田豊は被告人野田泰庵が池部止に供与するのを取次いで幇助したという軽き一罪を認定した差異があるに過ぎないから、訴因変更の手続をしないで原判示の如く認定しても、被告人の防禦に何等実質的な不利益を及ぼすものとは認められない。

従つて原審が訴因変更の手続をしないで原判示の如く認定したのは相当であり、所論の如く審判の請求を受けた事件につき判決をせず又審判の請求を受けない事件について判決した違法は存しない。論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 中村荘十郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!